「ワーケーションをやってみよう!」と思ったとき、ふと気づくのが経費問題です。一人社長や個人事業主として一人で事業をしていると、経費になるかならないかの判断がしづらく、悩むことも多いです。
そこでこの記事では、一人社長・個人事業主が適切に経費処理ができるよう、その判断基準と注意点についてご紹介します。

小島 美和(佐藤 みなと)
合同会社あすだち 代表
時間に追われすぎない穏やかな生活を送りたくて、会社員生活を卒業→起業。オンライン事務代行として活動中。節約と時短をこよなく愛しています。息子と2人暮らしのシングルマザー。
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一人社長と個人事業主で知っておくべき大前提

一人社長と個人事業主で共通するポイントは、「個人的な旅行を経費にするのはNG」という大前提です。あくまでも業務の実態があることが必須となります。
その上で、ワーケーションの経費を考える際に知っておきたいのが、法人化しているか個人事業主化で、経費の取り扱い方が変わるということです。
一人社長の場合
法人化している一人社長の場合、「業務のために必要な費用かどうか」が経費の判断基準となります。法人の経費は、業務に直接必要な支出であれば計上できます。
また、あらかじめ「旅費規程」を作成しておけば、ワーケーションを「出張」として経費処理できます。日当を設定すれば、所得税や社会保険料の節税効果も期待できます。
個人事業主の場合
個人事業主の場合、所得税法上の「事業に直接必要な経費」が基準です。法人のような社内規定がないため、自己判断に任される部分が大きくなります。
ただし、自己判断といっても、何でも許されるわけではありません。税務署の目は法人以上に厳しく、「個人の旅行を経費にしているのでは?」と疑われやすい傾向があります。
ワーケーション経費で税務署が見る4つのポイント

万が一、税務調査が入った場合には、以下4つの観点からワーケーション経費をチェックされます。
その1:業務実態はあるか
「仕事もした」という程度では不十分です。メールやLINEの履歴、議事録、納品した成果物、ワーケーション期間中のスケジュール表など、具体的な証拠が必要となります。
その2:業務とプライベートの区分は明確か
観光とビジネスが混在している場合、どの部分が業務で、どの部分がプライベートなのか、明確に区別できなければなりません。前述した業務実態を明らかにする証拠だけでなく、プライベートで支払った領収書などの証拠も保管しておきたいですね。
その3:金額は常識的な範囲か
同じ目的の出張で、通常かかる費用と大きくかけ離れていないかがチェックされます。不自然に高額な場合、疑いの目をかけられるおそれがあります。
その4:継続的・計画的に記録しているか
税務調査が入ってから慌てて作った記録は見抜かれます。日常的に業務の記録を残していることが確認できて、はじめて適切な処理がなされていると判断されるものです。
一人社長が法人経費として処理する場合

法人化している場合、旅費規程を活用することで、ワーケーションの経費処理がスムーズになります。
旅費規程を作成・運用していると、ワーケーションを「出張」として処理できます。この規定に基づいて日当を設定すれば、実費精算に加えて定額の手当も支給でき、所得税や社会保険料がかからないため節税効果も期待できるでしょう。
ただし、実態が伴わない規程は、税務調査で否認されるリスクが高いです。形式だけ整えても、業務実態がなければ意味がありません。
ここからは、具体的な経費ごとに経費計上の可否を見ていきましょう。
交通費(旅費交通費)
交通費は、按分計算が必要です。
純粋な業務目的の場合は全額を経費計上できますが、観光も含まれる場合は按分が必要です。また、取引先への訪問や商談のための移動など、業務目的が明確になっている場合は、一部または全額が認められる可能性があります。
借方:旅費交通費 30,000円 / 貸方:現金 30,000円
摘要:福岡出張・往復交通費(A社商談のため)
宿泊費(旅費交通費)
宿泊費は、条件付きで経費計上ができます。
基本的には認められにくい項目ですが、業務のためにどうしても必要な場合や、会社が指定した場合には経費計上できるケースがあります。
たとえば、遠方の取引先を訪問し、物理的に日帰りが困難になった場合は正当な理由と見なされやすいです。一方、単に「リモートワークをしたかった」という理由は根拠として弱く、経費として見なされづらいでしょう。
借方:旅費交通費 48,000円 / 貸方:法人カード 48,000円
摘要:札幌出張・宿泊費3泊(B社プロジェクト打ち合わせ)
コワーキングスペース利用料(賃借料/会議費)
コワーキングスペース利用料は、全額経費計上ができます。
ワーケーション中の利用であっても、税務上でも経費として認められる可能性が高い項目です。
業務に必要な作業環境を確保するための支出として、正当性が認められやすいです。領収書とともに、何の業務をしたのか記録を残しておくとより確実です。
借方:賃借料 5,000円 / 貸方:現金 5,000円
摘要:コワーキングスペース利用料(資料作成・顧客対応)
通信費(通信費)
通信費は、業務用なら全額経費として認められやすいです。
業務用のモバイルWi-Fiルーターやテザリング料金は、問題なく経費計上できます。プライベートと混在しているスマートフォンの場合は、使用割合や労働時間の割合で按分計算が必要です。
借方:通信費 8,000円 / 貸方:普通預金 8,000円
摘要:モバイルWi-Fiレンタル代(出張期間中の通信環境の確保)
飲食費(接待交際費)
飲食費は、単独での食事は原則経費として認められませんが、会食なら経費として認められます。
個人の食事代は経費になりません。これは出張中でも同様です。一方、仕事の関係者との会食や打ち合わせを兼ねた食事なら、接待交際費として経費計上が可能です。誰と何のために会ったか、領収書にメモを残しておきましょう。
借方:接待交際費 12,000円 / 貸方:現金 12,000円
摘要:C社 山田様との会食(新規プロジェクトの打ち合わせ)
家族の追加費用
家族同伴でワーケーションに行く場合、家族分の交通費や宿泊費の追加料金は経費になりません。
もし、社長一人での宿泊費が5万、家族同伴で10万円になった場合、経費にできるのは5万円のみです。差額は個人負担となります。
個人事業主が事業所得の必要経費として処理する場合

個人事業主の場合、法人以上に慎重な判断が求められます。
個人事業主には社内規定がなく、自己判断に任せられますが、その判断が正しいか最終的に判断するのは税務署です。そのため、法人と比べるとワーケーションが個人旅行と疑われやすく、業務実態の証明もより重要になってきます。
むやみな経費計上は税務調査の対象となるおそれがあり、迷う場合は税理士への相談をおすすめします。
個人事業主がワーケーション経費にできるもの・できないもの
ここでは、個人事業主として経費にできるものと経費にできないものをそれぞれ一覧でご紹介します。
個人事業主がワーケーション経費にできるもの一覧
| 経費項目 | 内容 |
| コワーキングスペース利用料 | ワーケーション中であっても、業務のための作業環境として認められやすい支出です。 |
| 取引先との会食費 | 事業に関連する接待交際費として計上できます。誰と何のために合ったかの記録を残しておきましょう。 |
| 業務用の通信費 | モバイルWi-Fiルーターやテザリングオプションなど、業務に必要な通信環境の費用は問題ありません。 |
| 取材・視察が明確な場合の交通費・宿泊費 | ライターやフォトグラファーなど、現地での取材が業務の一部である場合、その目的での移動・滞在費用は経費として認められやすくなります。 |
| 交通費・宿泊費 | 観光も含む滞在の場合は按分計算が必要です。使用割合や労働時間の割合で計算し、業務に該当する部分のみを経費計上します。按分比率は保守的に設定し、税務署に説明できる根拠を用意しておきましょう。 |
個人事業主がワーケーション経費にできないもの一覧
| 経費項目 | 内容 |
| 純粋な観光費用 | テーマパークの入場料や観光ツアー代など、明らかにプライベートな支出は経費になりません。 |
| 家族の追加費用 | 家族同伴での旅行において、家族分の追加コストは事業とは無関係です。 |
| 個人の食事代 | 日常的な食事は生活費であり、出張中であっても経費にはなりません。 |
証拠書類の残し方
税務調査で指摘されないためには、日常的な記録が不可欠です。
たとえば、
- Googleカレンダーで業務予定を記録する
- 取引先とのメールを保存する
- 業務成果物を紐づけする
- 領収書に用途などのメモを追加する
- 業務実態を証明する写真を撮影する
などが挙げられます。すべて網羅するのが難しい場合は、どれかひとつでもいいので業務実態を明らかにできるようにしておきたいですね。
ワーケーション経費のよくある質問

最後に、ワーケーションの経費について、よくある質問をまとめました。
- 「視察」や「研修」名目での経費計上はいいですか?
-
やってはいけません。具体的な業務成果や実績がなければ認められません。研修の場合、受講証明書、カリキュラム、学んだ内容のレポートなど、客観的な証拠が求められます。
- 一人社長なら旅費規程でどうにでもなりますか?
-
旅費規程は確かに有効なツールですが、魔法の杖ではありません。出張と言える業務実態が必要です。
たとえば、規程に「海外出張の日当は1日10万円」と書いても、実態が伴わなければ給与課税されたり、経費として否認されたりします。
- 税務署にバレなければ大丈夫ですか?
-
税務調査は過去7年分までさかのぼれるので、不正はバレます。恋に所得を隠したと判断されれば、以下のペナルティが課されます。
- 本来の税額に加えて追徴課税
- 重加算税(本税の35%~40%)
- 延滞税(年率最大14.6%)
- 按分比率はどう決めればいいですか?
-
保守的に見積もり、客観的な根拠を用意しましょう。迷った時は少なめに見積もるのが安全です。50%か60%で迷ったら、50%を選択するのが無難です。
按分比率の根拠として有効なのは、以下の方法です。
- 時間ベース:総滞在時間のうち、業務に費やした時間の割合
- 日数ベース:総日数のうち、業務を行った日数の割合
- 活動ベース:総活動のうち、業務に該当する活動の割合
まとめ

仕事とプライベートの境界があいまいな一人社長や個人事業主にとって、ワーケーションという働き方は相性がいいと言えます。新しい環境での仕事は、創造性や生産性を高める効果も期待できます。
ワーケーションで経費にできるものとできないものは具体的に明示されていますので、それにのっとって適切に処理しましょう。それでも判断に迷う場合や、高額な支出を予定している場合は、税理士に相談して解決してはいかがでしょうか。
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