2026年4月から「労働安全衛生法」が大きく見直され、小規模事業者や一人社長にも影響するポイントが増えます。ところが、そのポイントを把握しきれず、どのように対処すればいいか悩む方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、「労働安全衛生法」の基本から改正内容、そして、一人社長や個人事業主が押さえておくべきポイントを、できるだけわかりやすくまとめました。

小島 美和(佐藤 みなと)
合同会社あすだち 代表
時間に追われすぎない穏やかな生活を送りたくて、会社員生活を卒業→起業。オンライン事務代行として活動中。節約と時短をこよなく愛しています。息子と2人暮らしのシングルマザー。
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労働安全衛生法とは?

労働安全衛生法は、働く人の「健康」と「安全」を守ることを目的とした法律です。職場での事故を防ぎ、心身ともに健全な状態で働ける環境を整えるための基準を示しています。
仕事や事務所など、「従業員を雇う企業のための法律」というイメージが強いかもしれません。しかし、最近はテレワークやフリーランスなど働き方が多様化したことから、小規模事業者や一人社長にも関係する場面が確実に増えています。
特に重要なのは、企業の規模にかかわらず「安全に働ける環境を整える責任(安全配慮義務)」が求められる点です。
- 在宅ワーカーを雇う
- 外部の業務委託スタッフに仕事を振る
- パートスタッフを1名だけ雇う
といったケースでも、事業者として最低限の配慮が必要になります。
2026年4月に変わる!労働安全衛生法改正の全体像

2026年4月に施工される労働安全衛生法の改正は、これまで以上に「働く人の健康・安全」を重視した内容となっています。
背景には、テレワークの普及、メンタル不調者の増加、副業・兼業の一般化など、働き方の多様化があります。従来の「会社に集まって働く前提」では十分に対応できない課題が増えてきたため、今回の改正では、メンタルヘルス、テレワーク環境、ハラスメント対策、外部スタッフへの配慮が大きなテーマとなります。
特に注目すべきポイントは、企業規模に関係なく、必要となる最低限の安全配慮が明確化されることです。従業員を1人だけ雇う場合や、外部の業務委託スタッフと仕事を進める個人事業主にも関係される範囲が広がります。
改正1:メンタルヘルス対策の強化
これまでのメンタルヘルス対策と言えば、「ストレスチェック」や「産業医との連携」をイメージしがちでしたが、今回の改正では「職場の環境づくり」そのものが重要視される方向へ大きく舵が切られています。
特に小規模事業者や一人社長に影響するポイントは、従業員数が少なくても、働く人がメンタル不調を起こさないための配慮が必要という点です。
たとえば、以下のような配慮が求められます。
- 心理的安全を確保できる職場づくり
- テレワーカーや時短スタッフへの配慮も義務レベル
- 相談しやすい仕組みを作ることが求められる
- 果汁労働・長時間労働の防止が明確化
改正2:テレワーク環境の安全性向上
テレワークを導入している事業者に対しては、在宅で働くスタッフの作業環境に配慮することも求められます。
テレワークは自由度が高い反面、
- 肩こり・腰痛などの身体的不調
- 不適切な椅子・机による疲労蓄積
- 換気・照明不足による集中力低下
- 孤立感やコミュニケーション不足
といった、見えない健康リスクが増加しています。従業員が少ない職場ほど、1人の不調が業務に直結しやすいため、健康管理の放置が経営ではリスクにつながりかねず、それを網羅しています。
改正3:ハラスメント防止の実効性強化
ハラスメント防止の対策は、「形だけでなく、実際に効果のある取り組み」を行うことが重視されるようになります。
働き方の多様化により、対面だけでなく、オンライン上でのコミュニケーションによるトラブルが増えています。職場の人数が少ない場合には、上下関係の偏りや強い指示の出し方がストレスの原因になりやすく、外部の人から見えにくい問題が深刻化しやすい傾向があります。
そのため、
- ハラスメントを起こさない仕組みを作ること
- 問題が起きたときにすぐに動ける体制を整えること
- 結果が確認できるような活動・教育・相談体制を維持すること
が重要になります。単に「ハラスメントはダメ」と掲げるだけでは不十分で、予防、発見、対処の3つが実際に機能しているかが問われます。
改正4:外部委託スタッフへの安全配慮義務の明確化
安全配慮義務は「フリーランス新法(特定受託事業者保護法)」の流れとともに連動しており、事業者が外注パートナーに過度な負担を与える働かせ方をしている場合、トラブルや法的リスクが生じやすくなるのを予防する意図があります。
これまでは、外部委託はあくまで「契約」であり、労働者保護の対象とは言い切れない部分がありました。しかし、テレワークの普及や業務委託の増加により、実質的に従業員と同じような働き方になるケースが増えています。
そのため、改正法では、
- 過剰な納期設定
- 無理のある業務量
- 深夜・休日の頻繁な連絡
など、相手の心身に大きな負担を与えかねない好意は安全配慮義務違反につながり得ると考えられるようになります。
改正5:安全衛生教育の充実
働く人の安全・健康を守るための教育をより確実に実施することが求められるようになります。
これまでも義務として存在していましたが、実際には「形だけ」「やったことにしておく」というケースも少なくありませんでした。今回の改正ではそのような形骸化を防ぐため、「実際に役立つ教育を継続して行うこと」に重点が置かれています。
一人社長・個人事業主・小規模事業者に関係する改正ポイント

2026年4月の「労働安全衛生法改正」は、一人社長、個人事業主、小規模事業者ほど影響を受けやすい改正です。
理由はシンプルで、小さな組織ほど「ひとりの不調=事業継続への直接的なダメージ」につながりやすいため、法改正の観点でも小規模こそ予防を徹底すべきという流れが強まっています。
ここでは、小規模事業者が特に押さえておくべき改正ポイントをまとめます。
その1:テレワーカー・在宅スタッフへの環境配慮義務
パートタイムの在宅ワーカーや業務委託スタッフを活用している小規模事業者の場合、彼らの作業環境が適切かどうかに配慮する責任が明確になります。
たとえば、
- 深夜の連絡を避ける
- 過度な作業量を不意に押し付けない
- 作業手順を明確にして迷いを減らす
といった配慮が求められます。
その2:外部委託スタッフに対する安全配慮義務
フリーランス新法と今回の改正が連動し、外注パートナーにも過度な負担や無理な依頼はNGという考え方が強まっています。
特に注意すべきは次のようなケースです。
- 納期を一方的に短縮する
- 休日・深夜に強いプレッシャーの連絡をする
- 業務範囲をあいまいにしたまま依頼を追加する
外注だからといって、働かせ方に遠慮しなくていいという時代は終わりつつあります。
その3:メンタルヘルス対策は小規模ほど重要に
今回の改正では、心理的安全性の確保やストレスを増やさない業務設計など、ソフト面のケアまで求められるようになります。
たとえば、
- 仕事の丸投げを避ける
- 不安や疑問を共有できる場を設ける
- チャットやメールの口調に気をつける
小規模な組織特有の「距離の近さ」が、ストレスになるリスクも考慮する必要があります。
その4:ハラスメント防止の実効性が求められる
パワハラ・セクハラだけでなく、オンラインハラスメント(チャットでの威圧行為や深夜連絡)も問題化しやすいため、小さい組織でも再発防止策を整える必要があります。
具体的には、
- 連絡時間帯のルール
- 急な依頼は追加料金や事前相談で対応する
- 外部相談窓口(社労士・相談サービスなど)の確保
が有効です。
その5:安全衛生教育は「年1回行うもの」へ
安全衛生についての教育は、オンライン講座や動画教材で定期的に実施することが推奨されます。
- テレワークの健康管理
- ハラスメント防止
- メンタルケア
- 作業の注意点
これらを年に1回共有することで、法的リスクも経営リスクも大きく減らせるでしょう。
その6:一人社長自身の健康管理も含まれる
一人社長・個人事業主は、「自分が倒れたら事業が止まる」という構造です。そのため、今回の改正では、代表者自身の健康管理も含めて安全管理を考えるという考え方に近づいています。
- 過労
- 睡眠不足
- ストレス過多
- 長時間の座り作業
は事業が止まるリスクになります。事業だけでなく、健康のためにも体調管理に努めたいですね。
改正内容から見える「これから求められる働き方」

2026年4月に施工される「労働安全衛生法改正」は、単なる法律の変更だけでなく、働き方そのものをアップデートしなければ、健康リスクも事業リスクも回避できなくなったという時代になったことを意味します。
改正内容を総合すると、これから求める働き方には次のような特徴があります。
その1:心理的安全を土台にした働き方
今回の改正の中心は、メンタルヘルス対策です。つまり、これからの働き方では、「安心して意見を言える」「不安を抱え込まない」という心理的安全が前提条件となります。
特に、小規模事業者では代表者(管理職)と従業員の距離が近いゆえに圧力を感じやすく、気づいていないうちにストレスを溜めるケースが多いです。
- 質問しやすい雰囲気
- 相談しやすい距離感
- ミスを責めない文化
これらが、働き方の質を左右する時代になります。
その2:ていねいなコミュニケーション
働き方の多様化によって、ミスコミュニケーションやディスコミュニケーションによるトラブルが起きるケースが増えています。今回の改正で強調されているのは、ていねいな指示、明確な業務範囲、連絡時間帯の配慮といったコミュニケーションの質です。
これからの働き方では、「言わなくても分かるだろう」が通用せず、言葉で明確に伝えることが求められます。
その3:健康を守る働き方が必須
企業規模に関係なく、健康を守る働き方の設計が必須になります。これは、従業員だけでなく、一人社長(代表者)も当てはまる取り組みです。
具体的には、
- 過重労働を避ける
- 休憩や休日を確保する
- メンタル不調を早期に察知する
- テレワークでの姿勢・環境に気をつける
といった取り組みが検討されるでしょう。
その4:働く時間よりも成果を重視するワークスタイル
テレワークや業務委託の増加により、働く時間を細かく縛るよりも、成果やアウトプットを基準にした働き方が主流になると予想されます。
そのため、これからの働き方では、
- 無理のない納期設定
- 依頼内容の明確化
- 成果の基準を共有
- 期待値のすり合わせ
といった「結果にフォーカスした仕組みづくり」が求められるでしょう。
その5:人に依存しない働き方の重要性が高まる
小規模事業者ほど、特定の人に業務が集中しやすく、メンタル不調や離脱が大きなダメージになります。今回の改正では、仕組み化、マニュアル化、業務分散の必要性を強く示しています。
- 手順書
- チェックリスト
- 標準業務のテンプレート
- 外部パートナーの活用
これらは、健康だけでなく、事業存続を守るための保険になるでしょう。
その6:外部パートナーとも対等な関係で働く
フリーランス新法とも連動し、外部委託スタッフとの関係も、これまで以上に対等性が求められるようになります。やりとりが一方的だったり、無理な依頼をする関係は、トラブルに直結します。
今後の働き方では、
- お互いの負荷を尊重する
- 契約内容を明確にする
- 無理なスケジュールを避ける
といったことが前提になるでしょう。
その7:働く人の健康が最大の成果になる
今回の改正で法律が示しているメッセージは、「健康な状態で働けることが、生産性にも事業継続にも直結する」ということです。これからの働き方を考える際には、健康の維持を軸に設計する必要があります。
- 無理を前提にしない
- 働きやすい環境を作る
- ていねいなコミュニケーションを取る
- 心理的ストレスを減らす
これらができて初めて、長く安心して働き続けるようになるでしょう。
一人社長・個人事業主でもできる!労働安全衛生のシンプルな整備方法

一人社長や個人事業主の場合、できる範囲の整備だけでも十分にリスクを減らせます。
ここでは、専門知識がなくても実践しやすいシンプルな整備方法をご紹介します。
方法1:最低限のルールを文章化する
まずはA4用紙1枚で「作業ルール」を決めましょう。ガチガチに決めるのではなく、仕事をするうえで最低限必要なルールのみにして、「あそび」を持たせるのがおすすめです。
たとえば、
- 連絡時間帯は〇時~〇時
- 急ぎの依頼は事前に相談する
- チャットはていねいな言葉でコミュニケーションを取る
- 夜に送るメッセージには「翌朝の連絡でOK」と記載する
- 健康上の不安がある場合は、相談する
という内容です。一度文章に落とし込んでおくと、外注先だけでなく取引先や顧客との良好な関係にもつながるでしょう。
その2:テレワークスタッフに「作業環境チェックリスト」を渡す
2026年の改正では、テレワーク環境への配慮が求められます。以下のような簡単なチェックリストを渡すだけでも、十分対策を取っていると言えるでしょう。
- 机と椅子の高さが合っている
- 画面は目の高さに合わせ、40㎝以上離す
- 1時間ごとに5分の休憩を取る
- 部屋の照明が暗すぎない
- エアコンを適宜利用しつつ、換気を行う
その3:業務委託者にも最低限の安全配慮をする
いわゆる外注でも、無理な依頼をしていいわけではありません。業務上の注意点などを共有することで、後々のトラブルを防げるでしょう。
共有しておくべき事項には、以下のようなことが挙げられます。
- 急な追加依頼があった場合の対処方法
- 深夜・休日の連絡可否
- 納期や作業範囲の明確化
- トラブルが起きたときの相談窓口
その4:安全衛生教育は動画教材で十分
従業員が1名~数名でも、年1回の安全衛生教育があると、実効性のある取り組みとして評価されやすいです。
たとえば、
- YouTubeの安全啓発動画
- 厚生労働省のメンタルヘルス教材
- 社労士事務所のオンライン研修
- Udemyなどの短時間講座
が挙げられます。これらを視聴し、簡単に「学んだこと」を記録に残しておけば、対策として十分です。
その5:自分自身の健康管理も労働安全衛生の一部ととらえる
一人社長の場合、自分の体調が会社の体調といっても過言ではありません。今回の改正では、一人社長や個人事業主のような自営業者も対象に含まれているので、いっそう気を配りたいですね。
具体的には、以下のようなことが挙げられます。
- 睡眠の確保
- 休養のスケジューリング
- 作業時間の記録
- 長時間の集中を避ける仕組み
- ストレス原因の定期的な洗い出し
労働安全衛生のよくある質問

- 従業員が1人でも、労働安全衛生法は関係ありますか?
-
はい、関係します。
従業員数にかかわらず、働く人の健康や安全を守る「安全配慮義務」は事業者にあります。事業規模が小さいほど、1人の不調が事業に直結するため、最低限の対応が必要とされます。
- パートやアルバイトが週に数時間しか働かない場合でも、対応が必要ですか?
-
必要です。
短時間勤務であっても、作業環境の整備、メンタルケア、ハラスメント対策は対称になります。ただし、簡易的なルールや短時間の教育でも、十分効果が期待されるでしょう。
- 業務委託者にも安全配慮が必要ですか?
-
必要です。
外注先に無理な納期を押し付けたり、一方的な業務変更をしたりすると、フリーランス新法や今回の改正の趣旨からしてもリスクが高まります。作業範囲、納期、連絡ルールを明確にすることが重要です。
- 対応できていないと罰則になりますか?
-
大企業と比べると罰則リスクは低いですが、事業リスクは高まるおそれがあります。
小規模事業者の場合、事故、不調、トラブルが即業務停止につながりかねません。法令順守だけでなく、事業継続の観点からも最低限の整備は必要でしょう。
まとめ

2026年4月の「労働安全衛生法」の改正は、働く人を守るための法律という枠を超えて、小規模事業者の働き方そのものを見直すタイミングとも言えます。
従業員が少なくても、外注先と仕事をしていても、最低限の健康配慮、環境整備、コミュニケーションの工夫は欠かせないでしょう。できるところから長く安心して働ける仕組みに整備し、続けやすい形へアップデートしてはいかがでしょうか。
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