法人化して最初に悩むのが「自分の給料(役員報酬)」ではないでしょうか。しかし、本業に追われているからこそ、実務の負担をできるだけ少なく、効率的に対応を進めたいですよね。
そこでこの記事では、手残りを最大化する金額設定のコツ、具体的な手続きの流れ、実務でよくある質問までを網羅して解説します。

小島 美和(佐藤 みなと)
合同会社あすだち 代表
事務歴15年以上。2021年に独立、幅広い業種の一人社長や個人事業主のサポートをしています。「仕事のていねいさ」「相談しやすさ」に定評。
限られた時間の中で最大の成果を出す「効率化」を重視し、お客様が本来の業務に集中できるよう、心強いパートナーとして伴走します。
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役員報酬の賢い金額設定のコツ

役員報酬額を決めることは、自分の給与を決めるだけではなく、個人が払う税金および社会保険料を決めることでもあります。安易に決めると手残りが減るリスクがあり、ポイントを押さえて金額設定をしましょう。
その1:法人税率と所得税率の「逆転ポイント」を意識する
もっとも基本的な考え方は、会社に利益を残して法人税を払うのと、個人に給与(役員報酬)を出して所得税を支払うのとで、どちらが安いかです。
所得税が年収に応じて5%から45%まで跳ね上がる累進課税なのに対し、法人税は30%前後で一定です。この構造の違いを利用するのが節税の基本です。
役員報酬が低い場合は、個人の所得税率は低くなりますが、法人税の負担が増えます。役員報酬が高い場合はその逆で、個人の税率は高く、法人税が少なくなります。
一般的に、役員報酬額が800万円~1,000万円を超えると、個人の税率が法人税率を上回ることが多いため、このあたりが金額設定のひとつの目安となるでしょう。
その2:社会保険料の「上限」と「負担感」を考慮する
社会保険料は、実際の月給ではなく、月給をキリのいい幅で区切った「標準報酬月額」という等級に当てはめて計算されます。この等級には上限額が設けられていて、健康保険は139万円、厚生年金は65万円とされています。
たとえば、月給65万円を超えたぶんは、厚生年金が掛け捨てにならないゾーンに入ります。社会保険料のコスパを最大化するなら、この天井を意識した戦略が検討されるでしょう。
なお、社会保険料の支払いは会社と個人とで折半となりますので、支払額は月収の約30%となります。
その3:「給与所得控除」をフル活用する
役員報酬は給与扱いとなり、会社員と同様に「給与所得控除」が適用されます。いわば、税務署が認めてくれた「領収書のいらない経費」です。個人事業主にはなかったこの控除枠を使い切ることが、法人なりの醍醐味と言えるでしょう。
2026年 給与所得控除額一覧表
| 役員報酬(年収) | 給与所得控除の計算式 | 控除額の目安 |
| ~123万円 | 65万円(一律) | 65万円 |
| 123万円超~180万円 | 収入金額×40%-10万円 | 39.2万円~62万円 |
| 180万円超~360万円 | 収入金額×30%+8万円 | 62万円~116万円 |
| 360万円超~660万円 | 収入金額×20%+44万円 | 116万円~176万円 |
| 660万円超~850万円 | 収入金額×10%+110万円 | 176万円~195万円 |
| 850万円超 | 195万円(上限) | 195万円 |
その4:キャッシュフローと「内部留保」のバランス
最後に忘れてはならないのが、会社の資金繰り(キャッシュフロー)です。節税のために役員報酬を高く設定しすぎると、会社の現預金が枯渇し、いざというときの設備投資や運転資金が不足してしまいます。
一人社長の場合、「個人の生活費+α」を役員報酬の最低ラインとしつつ、会社の決算書を黒字に保てる範囲で調整するのが、もっとも賢い設定と言えるでしょう。
役員報酬を支給すると決めたら行う手続き

金額が決まったら、次はその決定を法的に有効なものにするための事務手続きが必要です。役員報酬は、単に「来月からこの金額を振り込む」と決めるだけでは、税務調査で経費(損金)として認められません。
以下の4つのステップを、かならず適切なタイミングで行いましょう。
その1:株主総会(または取締役会)の開催と決議
役員報酬は「お手盛り防止(勝手に自分の給料を上げることの防止)」のため、定款に定めていない場合は、株主総会で決定する必要があります。
開催時期は、会社設立から3ヶ月以内、または新年度(期首)から3ヶ月以内が一般的です。一人社長の場合でも、「株主総会を開き、決定した」という事実が必要なので、かならず開催しましょう。
その2:株主総会議事録の作成
株主総会で決議した内容は、かならず「株主総会議事録」として残しておかなければなりません。これは、税務調査の際に、役員報酬が正当な手続きで決まったことを証明する唯一の証拠になります。
議事録には、
- 開催日時と場所
- 出席株主数(一人社長なら「本人」のみ)
- 決議事項(「役員報酬を月額〇〇円と定める」旨)
- 議長および出席役員の署名捺印
を記載しましょう。誰かに見せる必要はありませんが、未来に起こるかもしれない税務調査から会社を守る「盾」として、10年間大切に保管しておきましょう。
その3:社会保険の手続き
報酬額を決定・変更した後は、社会保険料の計算根拠を更新するために、法人の事務所のある市区町村の年金事務所に届け出る必要があります。
- 新規の場合は「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」
- 金額を変更した場合、これまでの報酬から大きく変更する場合は「被保険者報酬月額変更届(随時改定)」
をそれぞれ提出します。
「5日以内」という期限は意外とタイトです。報酬額が決まったその日のうちに、e-Govなどのネット申請でサクッと手続きを終えるのが理想的でしょう。
その4:税務署への届出
役員報酬意外に、役員にもボーナスを支払いたい場合は、事前に「事前確定届出給与に関する届出」を税務署へ提出する必要があります。
提出期限は、株主総会の決議から1か月以内、または会計期間開始から4ヶ月以内のいずれか早い日です。
1日でも提出が遅れたり、届け出た金額と1円でも違って支払ったりすると、全額が経費として認められなくなります。非常に厳しいルールなので、一人社長がボーナスを支給する場合は慎重に手続きしましょう。
その5:源泉徴収事務の準備
役員報酬を支払う際は、会社が所得税を天引き(源泉徴収)をして国に納める義務があります。その手続きとして、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出します。
社員が10人未満の会社の場合、毎月の納税を年2回にまとめて後払いできる特例があります。事務負担を減らすため、税務署に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を出しておくのが一般的です。
役員報酬の手続きでよくある質問

役員報酬の運用を始めると、想定外の事態や「これってアリなの?」という疑問が出てきます。ここでは、特に寄せられる質問をピックアップして解説します。
- 年度の途中で役員報酬額を変更できますか?
-
原則として、会計期間中はずっと同じ金額。
もし、利益が出たからといって年度途中に増額すると、増額したぶんは経費(損金)として認められず、会社に余計な法人税がかかってしまいます。
ただし、
- 期首から3ヶ月以内に行われる通常改定
- 役員の職位が変わったり、職務内容が劇的に変わった場合
- 会社の経営状況が悪化し、倒産の危機がある等のやむを得ない事情がある場合
は、例外的に変更が認められる場合があります。
- 赤字で役員報酬が払えない場合は、どうすればいいですか?
-
「未払い金」として計上するか、議事録を残して辞退する手続きが必要です。
資金繰りが苦しく、支払できない場合に「役員報酬/未払い金」として処理すると経費(損金)にできますが、源泉徴収税を納付しなければなりません。最初から受け取る権利を放棄する場合は、「役員報酬自体の議事録」を作成し、社会保険料の等級変更(随時改定)の手続きを検討・届出が無難でしょう。
- 役員報酬を「月額1万円」など、極端に低く設定しても大丈夫ですか?
-
税務上は問題ありませんが、社会保険のメリットが薄れます。
役員報酬を極端に低くすれば、個人の所得税や社会保険料は最小限になります。しかし、社会保険(厚生年金)の受取額が減る、住宅ローンの審査が通りにくくなるといったデメリットもあります。
また、社会保険には「最低ランク(標準報酬月額5.8万円)」があるため、それ以下の報酬であっても一定の保険料が発生します。
まとめ

役員報酬は、会社の法人税と個人の所得税・社会保険料のバランスを考慮し、手残りを最大化する金額設定が肝心です。
決定後は、かならず期首から3ヶ月以内に「株主総会議事録」を作成し、社会保険の手続きを進めましょう。一度決めると期中の変更は原則できないため、慎重なシミュレーションをしてくださいね。
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