個人事業主や副業の間では、マイクロ法人が注目を集めています。しかし、安易に設立すると「思ったよりもコストがかかった」「手続きが煩雑だった」「逆に税負担が増えた」など、後悔するケースも少なくありません。
そこでこの記事では、マイクロ法人の基本的な仕組みや特徴、設立時の注意点、よくある失敗事例、設立前にチェックすべきポイントをわかりやすく解説します。さらに、どのような人にマイクロ法人が向いているのか、判断材料として使える情報もご紹介します。

小島 美和(佐藤 みなと)
合同会社あすだち 代表
時間に追われすぎない穏やかな生活を送りたくて、会社員生活を卒業→起業。オンライン事務代行として活動中。節約と時短をこよなく愛しています。息子と2人暮らしのシングルマザー。
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マイクロ法人の仕組みと特徴

マイクロ法人は、最小限の規模で設立・運営される法人であり、おもに一人社長による経営が特徴的です。
その理由は、設立費用や維持コストを抑えながら、法人化による節税効果や社会的信用を得られるからです。特に、フリーランスや副業の収入を管理したい個人にとって、マイクロ法人は柔軟な手段となるでしょう。
たとえば、合同会社でマイクロ法人を設立すれば、設立費用を安く抑えられるうえに、「代表社員=自分自身」として運営できるため、意思決定や実務もスピーディに進められます。一定の条件下では役員報酬をコントロールし、社会保険料を最適化する工夫も重要です。
マイクロ法人の詳しい作り方・手順は、別記事で詳しく解説していますので、参考にしてくださいね。
マイクロ法人を設立するときの注意点

マイクロ法人を設立する際には、節税や信用力の向上といったメリットだけでなく、見落としやすい注意点もきちんと押さえておく必要があります。安易に設立すると、かえって手間やコストが増えて公開するケースも少なくありません。
特に注意すべき点は以下のとおりです。
注意点1:社会保険の加入義務とコスト
マイクロ法人を設立すると、たとえ一人社長であっても原則として社会保険への加入が義務付けられます。
これは、法人として登記された時点で「使用者(事業主)」と「被保険者(従業員)」が同一人物であっても、厚生年金保険と健康保険の適用事業所と見なされるからです。加入は任意ではなく、制度上の義務として扱われます。
注意点2:設立後の維持費と記帳の手間
マイクロ法人を設立すると、毎月の維持費や会計処理の手間が継続的に発生します。
法人は赤字や売上ゼロであっても「法人税の申告」や「決算書の作成」が義務付けられており、個人事業主と比べて管理の手間やコストが大きくなりがちです。また、法人名義で契約したものの支払い管理や帳簿付けなども、すべて自分で行う必要があります。
注意点3:役員報酬と節税額のバランス
マイクロ法人では、役員報酬の設定を誤ると、節税どころかかえって税負担や社会保険料が増えるリスクがあります。
役員報酬は法人の損金(経費)として扱われる一方で、個人側では所得として課税対象となり、さらに社会保険料も報酬額に応じて決まります。節税を狙って高く設定すれば個人の税・社保負担が増え、低くしすぎれば法人の利益に税金がかかるなど、バランスが非常に重要です。
注意点4:帳簿や証憑の保存義務の見落とし
マイクロ法人を設立すると、帳簿や領収書などの証憑類を一定期間保存する義務が発生します。これを怠ると、税務調査で不利な扱いを受ける可能性があります。
法人には法律で「帳簿書類は7年間保存すること」が義務付けられており、証憑(領収書・請求書・契約書など)の保存は、法人の経費処理の根拠として非常に重要です。保存が不十分だと、経費が認められず、法人税が増える可能性があります。
注意点5:本業と収入との兼ね合い
マイクロ法人を設立する際は、本業の収入や働き方とのバランスを慎重に見極める必要があります。
マイクロ法人の収入と本業の給与を合算すると、税負担や社会保険料が予想以上に増えるケースがあるからです。また、会社員が副業として法人を持つ場合、就業規則や副業禁止規定に違反するリスクも見逃せません。
マイクロ法人設立後のよくある失敗事例とその原因・対策

マイクロ法人はうまく活用すれば節税や信用力アップにつながりますが、知識や準備が不十分なまま設立すると、かえって手間やコストが増えて後悔するケースも少なくありません。以下に、実際によく見られる失敗事例とその原因を紹介します。
事例1:社会保険の加入義務を甘く見ていた
【原因】報酬額を低くすれば、社会保険に加入しなくて済むと思い込んでいた
法人設立後も国民健康保険・国民年金のままにしていたことで、年金事務所から社会保険の未加入について指摘が入る可能性が高くなります。結果的に、過去にさかのぼって厚生年金と健康保険料を徴収され、数十万円の負担が発生します。未加入だった機関について、加算金や延滞金も発生します。
実際には、役員報酬がいくらであっても、法人設立と同時に原則として厚生年金・健康保険の加入義務が発生します。「節税のつもりで法人化したのに、保険料の負担で赤字に」という事態は少なくありません。マイクロ法人を成功させるためには、設立後の義務まで見据えた設計が欠かせません。
事例2:記帳や申告を後回しにしてトラブルになった
【原因】個人事業と同じ感覚で経理を扱っていた
「売上が少ないから大丈夫」「忙しいからあとでまとめてやればいい」と考え、領収書の整理や会計処理を先延ばしにすると起こりうるトラブルです。個人事業主と同じ感覚でいると、法人の会計・申告の重要性を正しく理解ができなくなります。
書類の整理や記帳を怠った結果、延滞税や加算税が発生して余計な出費が発生したり、期限ギリギリで税理士に高額で依頼したり、申告漏れで延滞税が発生したりすることもあります。
法人は、毎年必ず決算書を作成し、法人税等の申告をしなければなりません。記帳は月次で行い、会計ソフトやクラウドツールで自動化を図るなどで、早めの対応が必要でしょう。
事例3:思ったほど節税効果がなかった
【原因】節税額よりも維持費の方が高くついた
「マイクロ法人を設立すれば設立になる」という情報だけを鵜呑みにし、具体的なシミュレーションを行わなかったことが原因です。社会保険料や維持費などの「隠れコスト」を軽視していました。登記費用、税理士報酬、社会保険料などを含めた「維持コスト」が予想以上にかかり、節税どころか、手取りが減ってしまうという声も多いです。
マイクロ法人による節税は、「一定以上の利益がある」「社会保険料と報酬額が適切」「経費化できる支出が多い」などの条件がそろって、初めて効果が出ます。自分の収入状況や事業規模とあわせて、社会保険料や維持費をシミュレーションして判断しましょう。
事例4:副業が会社にバレてしまった
【原因】住民税の通知や登記情報から発覚した
副業で得た収入をマイクロ法人で管理すれば会社に知られないと思い込み、法人化すれば安心だと思い込んでいたことが原因です。住民税の通知方法や法人登記の公開情報まで配慮していないと、副業が会社にバレてしまうのです。
マイクロ法人を使えば、副業の事業っぽさを演出できますが、会社に副業がバレない仕組みにはなりません。会社に副業がバレないためには、本名を使わずに事業用のビジネスネームや別名を使うなど、本人だと特定されないような対応が必要です。
マイクロ法人設立に失敗しないための準備チェックリスト

マイクロ法人は、節税や資産管理、副業収入の分離などに活用できる便利な仕組みです。しかし、事前準備が不十分なまま勢いで設立すると、「想定外の支出が増えた」「手続きが煩雑で後悔した」といった失敗につながります。
以下のチェックリストを参考に、必要な準備が整っているか確認しましょう。
- マイクロ法人の設立目的が明確になっているか
- 役員報酬の金額を試算しているか
- 社会保険料の負担を理解しているか
- 年間の維持コストを試算しているか
- 会計や記帳の体制を準備しているか
- 本業や副業との関係を整理できているか
- 事業内容や定款の内容が明確か
マイクロ法人は、設立するだけで自動的に得になる仕組みではありません。むしろ「事前の準備」でほぼ成果が決まります。上記のチェックリストを活用し、自分の目的や収支に合った最適な設計を行いましょう。不安がある場合は、税理士や専門家への相談も視野に入れてください。
マイクロ法人の設立に向いている人・向いていない人

マイクロ法人は、すべての人に向いているわけではありません。ご自身の収入状況や働き方に合った活用が重要です。
マイクロ法人には節税や社会的信用といったメリットがある一方で、社会保険の加入義務、年間維持費、記帳・申告の手間など、個人事業とは異なる責任やコストも伴います。目的があいまいなまま設立すると、かえって負担ばかりが増えてしまうかもしれません。
項目 | 向いている人 | 向いていない人 |
収入状況 | 年間300万円以上の事業所得が安定してある | 収入が不安定/赤字が続いている |
節税意識 | 節税や社会保険料の最適化に関心がある | 「法人化=節税」と安易に考えている |
会計・事務スキル | 経理・申告を自力で処理できる or 外注できる | 会計や記帳に苦手意識が強く、外注費も出せない |
社会保険料負担 | 社保の負担を理解し、役員報酬を設計できる | 社保の強制加入を知らずに後から困る |
副業との関係 | 副業可・またはフリーランスで活動している | 副業禁止の会社員で、勤務先にバレたくない |
事業の将来性 | 法人の信用を活かして成長させたい | 趣味レベルや不定期収入で終わる予定 |
目的の明確さ | 節税・資産管理・信用向上など明確な目的がある | なんとなく法人を作った方が良さそうと考えている |
まとめ

マイクロ法人は、個人事業主や副業・資産管理を行う人にとって、節税や信用力向上といったメリットがある一方で、設立や運営には社会保険の加入義務や記帳・申告の手間など、見落とされがちなリスクも伴います。
安易に「節税できそうだから」と勢いで法人化するのではなく、自分の収入状況や将来設計と照らし合わせて、慎重に判断することが何より重要です。事前にしっかりと準備を整えたうえで、マイクロ法人という選択肢をうまく活用すれば、あなたのビジネスにとって大きな武器となるでしょう。
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