副業やフリーランスとして収入が増え、法人化を考え始めたときに候補に挙がるのが「マイクロ法人」です。しかし、マイクロ法人という名称を聞いたことがあっても、その実態はよくわからない方が多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、マイクロ法人とは何か、どんな人に向いているのか、そして設立までの具体的な流れや注意点までをわかりやすく解説します。

小島 美和
合同会社あすだち 代表
時間に追われすぎない穏やかな生活を送りたくて、会社員生活を卒業→起業。オンライン事務代行として活動中。節約と時短をこよなく愛しています。息子と2人暮らしのシングルマザー。
マイクロ法人とは?基本的な定義

マイクロ法人は、1人または少人数で運営する小規模な株式会社のことです。個人事業主や副業をしている人が、節税や社会保険料の調整を目的に設立するケースが増えています。
まずはマイクロ法人の基本から見ていきましょう。
マイクロ法人の特徴
マイクロ法人の特徴は以下のとおりです。
- 1人または少人数で設立・運営ができる
- 法人としての信用が得られる
- 節税対策に活用できる
- 社会保険料が調整しやすい
- 設立・運営コストが比較的低い
- 資産管理法人としても活用できる
- 法人名義で銀行口座や契約ができる
- 柔軟な働き方と相性が良い
たとえば、副業収入が年間300万円以上ある個人がマイクロ法人を設立すれば、給与所得控除を活用した節税や、社会保険料の負担調整がしやすくなります。また、名刺やWebサイトに法人名を記載することで、対外的な信頼を高められるでしょう。
マイクロ法人は、小さく始める法人経営に最適な選択肢です。ビジネスの規模に合わせて柔軟に活用できるのが最大の強みと言えるでしょう。
マイクロ法人と個人事業主の違い
マイクロ法人と個人事業主の一番の違いは、事業運営主体が「法人」か「個人」かという点です。
マイクロ法人は法人格を持つため、契約、税制、社会保険などで、個人事業主より優遇されるケースがあります。一方、個人事業主は手続きが簡単で、初期費用もほとんどかからず、手軽に始められるのがメリットと言えるでしょう。
詳しくは下表にまとめたので、参考にしてくださいね!
マイクロ法人と個人事業主の違いのまとめ
マイクロ法人 | 個人事業主 | |
事業形態 | 法人 | 個人 |
設立手続き | 登記が必要 | 税務署に開業届を提出する |
初期費用 | 約20万円程度 | ほぼ無料 |
税制 | 法人税 | 所得税 |
社会保険 | 原則、強制加入 | 任意加入 |
経費計上 | 役員報酬や退職金も経費にできる | 経費にできる範囲が法人より狭い |
信用力 | 高い | やや低い |
銀行口座・契約 | 法人口座開設、法人契約が可能 | 個人口座、個人名義の契約になることが多い |
事業継承 | 株式による継承が可能 | 事業主死亡で廃業の可能性も |
決算・申告 | 決算書作成、法人税申告が必要 | 青色申告 |
マイクロ法人が注目されている理由
マイクロ法人が注目されているのは、少ない負担で大きなメリットが得られるためです。少し手間はかかりますが、節税や社会保険料の調整がしやすく、個人事業よりも制度上の優遇が魅力でしょう。
たとえば、副業のためのマイクロ法人を設立すると、個人事業主で副業をするよりも手取りが増やせるかもしれません。法人化によって、給与所得控除ができたり、経費の幅が広がったりするので、稼ぐ力の強化にもつながります。
このように、マイクロ法人は「小さく始めて賢く稼ぐ」ための有効な選択肢として、ますます関心を集めています。
マイクロ法人のメリット・デメリット

マイクロ法人には大きなメリットがありますが、デメリットもあります。メリットとデメリットの双方を理解したうえで、法人化するかどうかを検討してくださいね。
メリット | デメリット | |
税金 | 給与所得控除や退職金制度が使えるため、節税効果が期待できる | 法人税の申告や会計処理が必要で、税理士のサポートが必要になることもある |
社会保険 | 役員報酬を低く設定することで、保険料を抑えられる場合がある | 原則として社会保険への加入が義務になる(加入条件を満たす場合) |
信用力 | 法人格があることで、対外的な信用が得やすい | 対外契約時の責任や義務も法人として発生する |
経費処理 | 経費にできる範囲が広く、柔軟な資金運用が可能 | 私的な支出との区別が求められ、帳簿管理が煩雑になりやすい |
事業運営 | 法人口座の開設や資産管理法人としての活用が可能 | 設立・維持に一定のコストがかかる |
その他 | FIREやセミリタイアとの相性が良い | 個人事業主よりも設立手続きや運営管理が複雑 |
マイクロ法人の作り方

マイクロ法人の設立は、基本的な手続きを抑えれば、個人でも十分に可能です。法人登記や定款の作成などの順序を踏むことで、スムーズに会社を立ち上げることができます。
手順1:法人設立の前に決めること
マイクロ法人をスムーズに設立するには、事前にいくつかの基本情報を決めておきましょう。
会社設立の手続きは、定款作成や登記申請など、正式な書類に基づいて進めます。ここでの準備が曖昧だと次の手順意向で手戻りが発生するかもしれません。
設立前に決めておきたいことは以下のとおりです。
- 会社名(商号)
- 会社形態(株式会社、合同会社、有限会社)
- 事業目的
- 本店所在地(自宅もしくはバーチャルオフィス)
- 資本金の額(1円から可能だが、目安は10万円以上)
- 役員構成(通常は自分1人で代表に就任)
手順2:定款の作成と認証
法人設立には、定款の作成と公証人による認証が欠かせません。
定款とは、会社の基本ルールを定めた「会社の憲法」のようなものです。これを公式に認めてもらうことで、会社としての法的な土台が整います。特に株式会社を設立する場合には、公証役場での認証が義務付けられています。
紙の定款では印紙代として4万円が必要ですが、電子定款ならこの費用を節約できます。多くの人が電子認証の代行サービスを活用して、コストを抑えています。
なお、代行サービスでは、定款だけでなく法人登記に必要な書類の作成まで請け負ってくれます。ぜひ活用してみてくださいね。
会社設立請負サービス一覧
手順3:資本金の払い込み
法人設立の際は、定款認証後に資本金を払い込む必要があります。
この手続きは、会社に資本金が確実にあることを証明する重要な手順です。資本金の払い込みが確認できなければ、登記申請をすることができません。
たとえば、設立時に10万円の資本金を設定した場合、自分名義の銀行口座にその金額を振り込みます。この口座は、設立者の個人口座で問題ありません。振込後は通帳のコピーなどで、払い込みが確認できる証拠を残しておきましょう。
手順4:登記申請
登記申請は、会社を正式に設立するための最終ステップです。
登記が完了してはじめて、会社は法的に成立します。定款認証や資本金の払い込みを終えたら、速やかに法務局へ登記書類を提出しましょう。
提出は、会社の本店所在地を管轄する法務局です。郵送でも可能ですが、窓口での提出なら不備の確認をその場で受けられて安心です。

郵送で不備のあった場合は、記載した電話番号に担当者から連絡が来て、不備書類を送ったり確認されたりします。
手順5:設立後の各種手続き
会社を設立した後は、関係各所への届け出や手続きが必要です。
登録が完了しても、それだけで事業が始められるわけではありません。税務署や社会保険関係の役所などに必要書類を提出しないと、法的な義務を果たしていないことになります。
これらの手続きには期限があるものも多いため、設立後1ヶ月以内を目安にすすめるのが安心です。
マイクロ法人の設立に必要な費用と期間


マイクロ法人の設立には、ある程度の初期費用と準備期間が必要です。スムーズに進めるためには、あらかじめ費用とスケジュールの見通しを立てておくことが大切です。
マイクロ法人の設立で候補となる株式会社と合同会社それぞれの一般的な費用は以下のとおりです。概算で、株式会社では約20万円前後、合同会社では約6~10万円前後の費用が目安となります。
株式会社 | 合同会社 | |
定款認証手数料 | 約5万円 | 不要 |
定款印紙代 | 4万円(電子定款なら不要) | 4万円(電子定款なら不要) |
登録免許税 | 最低15万円 | 最低6万円 |
その他(郵送代・謄本代など) | 数千円 | 数千円 |
合計金額(目安) | 約20万円前後 | 約6~10万円前後 |
また、設立にかかる期間は、書類がそろっていれば1週間~10日程度で完了しますが、はじめての場合は余裕をもって2~3週間見ておくと安心です。
マイクロ法人が向いている人・向いていない人の特徴


マイクロ法人は、すべての人に適しているわけではありません。
というのも、マイクロ法人には節税や信用力の向上といったメリットがある一方、設立や運営に手間やコストがかかるからです。そのため、状況によっては、個人事業主のままの方が合っているケースもあります。
マイクロ法人の設立が向いている人の特徴
- 年間の事業所得が300万円以上ある
- 節税や社会保険料の最適化を狙いたい
- 資産管理や副業収入を法人で運用したい
- 将来的に法人の信用力を活かしてビジネスがしたい
マイクロ法人が向いていない人の特徴
- 収入が少なく、設立や維持費が負担になりそう
- 会計や事務作業が苦手で、自己管理が難しい
- 短期的な活動だけを目的としている
このように、マイクロ法人のメリットを最大限活かすためには、自分の働き方、収入、目的に合っているかをしっかり判断することが重要です。
マイクロ法人の設立の注意点


マイクロ法人の設立には多くのメリットがありますが、事前に以下のポイントを抑えておかないと、負担が増えたり期待した効果が得られなかったりします。
注意点1:社会保険の加入義務を誤解しないこと
法人は原則として社会保険への加入が義務付けられています。たとえ社員が1人(自分のみ)であっても、一定の条件を満たせば加入対象となります。
任意と誤解していると、あとから保険料の遡及請求を受けるかもしれないので、注意が必要です。
注意点2:節税だけを目的にしない
マイクロ法人は節税手段として注目されていますが、法人化には維持費や事務負担も伴います。税理士費用や法人住民税などが毎年発生するため、メリットが費用を上回るかを事前にシミュレーションしておくことが大切です。
注意点3:口座開設が難しい場合がある
近年、マネーロンダリング対策の強化により、設立直後の法人に対する銀行口座の審査が厳しくなっています。事業実態や資金の流れを明確に説明できるよう、準備しておきましょう。
注意点4:本店所在地に制限がある場合がある
自宅を本店所在地にするケースが多いですが、賃貸契約やマンションの規約によっては「事業利用不可」とされていることもあります。事前に大家や管理会社に確認して、利用不可の場合は事前準備のときにバーチャルオフィスと契約しておきましょう。
注意点5:記帳や申告業務の負担が増える
法人になると、毎年決算書の作成や法人税の申告が必要になります。個人事業主よりも管理業務が煩雑になるため、会計ソフトの導入や税理士のサポートを検討してみましょう。
まとめ


マイクロ法人は、節税や社会保険料の最適化、信用力の向上など、多くのメリットをもたらす小規模な法人形態です。個人事業主や副業で一定の収入がある人にとっては、将来を見据えた賢い選択肢となるでしょう。
ただし、設立や運営には手間や費用が掛かり、社会保険の加入義務や会計処理の負担といった注意点もあります。「節税できるから」と安易に飛びつくのではなく、収入、働き方、目的を踏まえて、自分に合っているかを冷静に判断してくださいね。
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