マイクロ法人を設立した後に直面するのが、「役員報酬をいくらに設定するのか問題」です。特に、月8万円という金額は、節税や社会保険料の最適化を狙う個人事業主や副業ワーカーの間で注目されています。しかし、社会保険の加入義務、将来の年金、法人の信用力など、考慮すべき要素もあります。
そこでこの記事では、「なぜ8万円が注目されるのか?」という理由から、そのメリットとデメリット、そして8万円が本当に自分にとってベストな選択なのかを判断するための視点まで、わかりやすく解説します。

小島 美和(佐藤 みなと)
合同会社あすだち 代表
時間に追われすぎない穏やかな生活を送りたくて、会社員生活を卒業→起業。オンライン事務代行として活動中。節約と時短をこよなく愛しています。息子と2人暮らしのシングルマザー。
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マイクロ法人における役員報酬の考え方

役員報酬は、マイクロ法人の経営戦略において、非常に重要です。なぜなら、役員報酬の金額は、社会保険の加入義務、税負担、資金繰りに大きく影響するからです。
「マイクロ法人の経営者=代表者」が受け取る役員報酬は、法人の経費として扱える一方、個人としての課税対象にもなります。また、社会保険の加入・未加入を左右する基準にもなり、収入以上の意味を持つと言っても過言ではありません。
たとえば、年の途中で役員報酬を自由に変えることはできません。法人の期首に定めた報酬額を毎月固定で支払う必要があり、これを怠ると「損金(経費)不算入」とされ、節税どころか課税額が増えるリスクもあります。
マイクロ法人における役員報酬の設定は、単に生活費の目安ではなく、税務、保険、資金計画すべてに関わる基盤です。戦略的に金額を決めることで、法人経営をより安定させられるでしょう。
役員報酬8万円に設定する目的とは?

マイクロ法人を設立した際、役員報酬を「月8万円前後」に設定するケースが良く見られます。この金額は、主に社会保険の加入回避や節税対策などの目的で選ばれています。ただし、単純に金額を下げればよいわけではありません。
ここでは、役員報酬を8万円に設定する主な目的を解説します。
目的1:社会保険の加入を回避するため
役員報酬を8万円に設定する大きな目的は、社会保険の加入義務を回避することです。
というのも、社会保険(健康保険・厚生年金)は、役員報酬が月額88,000円(年収106万円)を超えると、原則として加入が義務づけられています。106万円を下回る報酬に抑えることで、保険料の支払いを避けられる可能性があります。すでに別の会社で社会保険に加入している人や、不要範囲内で収めたい人にとっては、法人側のコスト削減にもつながる重要な戦略と言えるでしょう。
目的2:個人の課税所得を抑えるため
8万円という金額は、個人としての課税所得を抑えるうえでも有効でしょう。
役員報酬は、そのまま個人の所得になります。しかし、8万円程度であれば、所得税、住民税の負担がごく軽微で済むため、個人の手取り額を最大化しやすくなります。特に、副業収入が他にもある場合には、合算課税を回避するための調整にも使えます。
目的3:法人の利益を残して節税するため
役員報酬を抑えることで、法人に利益を残し、法人税の範囲で節税できるようになります。
役員報酬は法人の経費になりますが、そのぶん、法人側の所得は少し減少します。しかし、あえて報酬を8万円程度にとどめ、法人内に利益を残すことで、法人税の軽減税率(800万円以下は15%)を活かしながら、将来の事業投資に備えることができます。
役員報酬を8万円にするメリット・デメリット

役員報酬を月8万円に設定することには、節税や社会保険料の回避といったメリットがある一方で、信用面や保障面でのデメリットも存在します。
これは、8万円という金額が、社会保険の加入基準をギリギリ下回るラインであり、制度の「隙間」を付いた最適化ともいえるためです。上手くいけば手元の資金を増やせる半面、将来的な不利益や制度変更のリスクにも注意が必要でしょう。
たとえば、8万円に設定することで、
- 健康保険や厚生年金の加入義務を回避でき、毎月数万円の社会保険料の負担がなくなる
- 所得税・住民税の負担も最小限で済み、可処分所得を増やせる
- 法人内に利益を残しやすくなり、低い法人税率を活かした運用ができる
といったメリットがあります。一方で、
- 社会保険に未加入となることで、将来の年金受給額が減る
- 健康保険が国保となり、扶養などの扱いが複雑化する場合がある
- 銀行や取引先からの信用力が「役員報酬=経営者の生活水準」と見られて低く評価される可能性がある
というデメリットも考慮しなければなりません。
役員報酬8万円で問題ない人・向いていない人

役員報酬を月8万円に設定しても問題がない人と、そうでない人がいます。
というのも、役員報酬8万円という金額は「社会保険の適用基準をギリギリ回避できるライン」である一方、将来的な保障や信用力に影響を与える可能性があるため、自身の状況や目的に応じた判断が必要だからです。
たとえば、以下のような人は8万円でも問題ありません。
- すでに別の勤務先で社会保険に加入している副業的なマイクロ法人オーナー
- 配偶者の扶養内で活動したい人
- 生活費は他の収入源でまかなえるため、法人の利益を優先したい人
- 節税重視で、将来の年金にはこだわらないと割り切っている人
これに対して、次のような人は注意が必要です。
- マイクロ法人の収入が生活費の大部分を占めている人
- 将来の年金や社会的保障を重視している人
- 融資を受けたい、信用力を高めたいと考えている人
- 健康保険の扶養条件を正しく理解していない人
たとえば、法人からの役員報酬が主な収入源にもかかわらず8万円に設定してしまうと、生活資金が不足したり、思わぬ税負担や国民健康保険料の増加につながることもあります。
役員報酬を月8万円に設定する実務上の注意点

役員報酬を8万円に設定することは、節税や社会保険対策として有効な選択肢ですが、実際に運用する際には、重要な実務ルールや注意点があります。
ここでは、報酬額を8万円に設定する際に抑えておきたい実務上の注意点と、その正しい設定方法について解説します。
注意点1:役員報酬は期首に決定しなければならない
役員報酬は、法人の事業年度が開始したときに、取締役会や株主総会などで正式に決定する必要があります。
なぜなら、法人税法では、役員報酬は「定期同額給与」として扱われることで、法人の損金(経費)として認められるからです。もし、年度途中で金額を変更したり、あいまいな決定プロセスで支給した場合は経費として認められず、節税の効果がなくなってしまいます。
そのため、事業年度が始まる前に役員報酬の金額をしっかりと決め、議事録などの書類を整えておくことが大切です。
注意点2:支給は毎月同じ金額で固定が原則
役員報酬は、「定期同額給与」として、毎月同じ金額を継続して支払う必要があります。
これは、法人税法で「定期的に同額でなければ損金に算入できない」と定められているためです。不定期な支払い、支払い忘れ、金額の変動があると、税務調査で否認される可能性があるので、毎月決まった日に同じ金額を支給する体制を整えましょう。
注意点3:社会保険との整合性に注意
報酬額が社会保険の加入ラインに近いため、制度上の解釈や運用にズレが出やすくなります。
というのも、支給額が微妙に超えていたり、変動があったりすると、意図せず社会保険の加入対象になる可能性があるからです。また、自治体によっては判断が厳格なケースもあり、報酬額の設定だけでなく、実際の支払い実績や役員報酬額の決定の根拠資料まで確認されることもあります。
精度の運用にはグレーな部分もあるため、専門家(社労士や税理士)への相談を通じて、リスク回避することが肝心です。
他の報酬額(10万円・20万円)との比較シミュレーション

役員報酬を8万円に設定するかどうかを判断するには、10万円・20万円といった他の金額と比較して、社会保険料や税負担の違いをシミュレーションすることが大切です。
というのも、報酬額が上がるにつれて社会保険の加入義務が発生し、所得税や住民税の負担も大きくなります。反対に、報酬が増えることで将来の年金受給額が増えたり、生活資金が安定するというメリットもあるため、単純に「安い方が得」とは言い切れません。
たとえば、以下は報酬額別に見た年間コストの目安です。
報酬別に見た年間コストの目安
報酬額 | 社会保険料 | 所得税・住民税 | 手取り年収(概算) |
月8万円(96万円) | 加入対象外 | 約1万円 | 約95万円 |
月10万円(120万円) | 約29万円 | 約3万円 | 約88万円 |
月20万円(240万円) | 約58万円 | 約10万円 | 約172万円 |
※社会保険料、所得税・住民税は年額で計算しています。
※実際の保険料・税額は条件によって変動します。目安としてご参照ください。
最終的には、目先の負担だけでなく、将来のライフプランや成長戦略も視野に入れて、報酬額を柔軟に検討することが重要です。
まとめ

マイクロ法人において、役員報酬を月8万円に設定することは、社会保険料の負担を抑え、節税効果を得るための戦略的な手段として広く活用されています。特に、副業や資産管理を目的とした法人では、有効な選択肢となるでしょう。
もっとも大切なのは、自分の働き方、ライフプラン、法人の目的に合った報酬設定を行うことです。単に「8万円が得」と決めつけるのではなく、他の金額との比較や専門家の意見も参考にしながら、総合的に判断することが成功のカギとなるでしょう。
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